クリスティーナの世界(Christina’s World)
Posted on 2022-02-24 by nakajima
20世紀のアメリカを代表する、最も大衆的人気をかちとっているリアリズムの画家といえば、やはりアンドリュー・ワイエス(Andrew Wyeth,1917-2009)でしょう。
私が彼を知ったのは某美術雑誌がきっかけで、それはもう半世紀程むかしの話ですが、当時は友人の間でもその卓越した描写力と世界観で憧れの存在でした。
今なお彼の作品は、世界中で高い人気がありますが、特に有名なのはテンペラ画の「クリスティーナの世界」(1948年 81.9cm×121.3cm)でしょう。
メイン州の荒涼とした風景、ピンクのドレスを着て草原に横たわっている若い女性を後ろから見たところを描いています。
彼女は休んでいるように見えますが、体はなぜか微妙に歪んで見えますし、手はあきらかに一般的な女性のものではない。
何も知らない当時の私は、美術誌に掲載されていたその絵のすばらしさに圧倒されたものですが、「この絵、手がおかしい。デッサンが狂ってるんじゃないか?」と思ったんですね。
実はこの絵のモデルはクリスティーナ・オルソン…制作当時のワイエスの近所に住んでいた方で、病気を患っていた実在の人物なのです。
彼女は「ポリオで下肢まひになった」とも、「早発型シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)」で末梢神経の正常な機能が損なわれ歩行が出来なくなったとも言われており…歪んだ指も病気の症状だったようです。
自分の足で歩くことができなかったにも関わらず、車椅子の使用を拒否し、腕を使って下半身を引きずって這うことを選んだ女性…。
障がいを持ちながらもあきらめず自宅を目指すクリスティーナの姿をワイエスは、毎日のように大きな感動を持って見守り、描いたのでしょう。
「肉体的には制限されているが、精神的には決して制限されていない」というワイエスの言葉は、彼女に対する敬意を表現しているようです。
ワイエスは彼女をテーマに複数の作品を制作していますが、私がかつて見た美術雑誌の表紙もクリスティーナ・オルソンがモデルでした。
尋常ではない強い意思が伝わってくる作品で、50年たった今もこの雑誌は手放せません(汗)。
この絵に描かれたオルソン・ハウスは、アメリカ合衆国国定歴史建造物となり、現在一般公開されているということです。
image by MoMA
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