春〜漫画家残酷物語より

Posted on 2024-08-22 by nakajima

漫画家残酷物語と言う1連のシリーズをご存知でしょうか?
青春漫画のカリスマ的存在だった永島慎二氏の作品で、全28話からなる短編集です。

1961年から3年の間に、当時20代だった永島氏によって貸本向けに描かれたものでしたが、その実験的な文学性が再評価されたようで1967年に単行本としてリバイバルしました。

(たかが漫画、読み捨てられるものとしての扱いしか受けていなかった当時としては、このような事は珍しかったと思いますが、大学生が漫画を読むという現象が話題になったのもこの頃からだったような気がします。)

結果、若者の悩みや葛藤を描いたそのシリーズは、当時の大学生を中心に圧倒的な支持を得たのでした。

私自身も大変な衝撃を受けたものでしたが、そのシリーズ(漫画家残酷物語)の中でも特に地味な「春」と言う作品があります。

自分が納得できる作品を作りたいと悩む青年が、家族や周囲に反対されながらも、家を出て仕事を捨てて自分を追い込むのですが、思い通りに描けない自分に悩み、自分が正しかったのかさえ確信が持てず…それでも前に進もうと葛藤する心と小さな救いを描いた作品とでも言いましょうか…。

そんな「春」にはちょっとしたエピソードがあります。

地味で絶対ウケないような「春」ですが、実その作品から大きな影響を受けた作詞家がいたのです

伝説的なロックバンド、はっぴぃえんどのメンバーであった松本隆、当時20歳。
(彼らは自分たちの楽曲は自らの手で作詞作曲する、そうしたバンドの草分け的存在でしたが、当時は日本語でのロックにこだわり悩んでいたらしいです。)

永島慎二氏の漫画「春」に感銘を受けた彼は、はっぴぃえんどメンバーのギタリスト大瀧詠一(当時21歳)のアパートを訪ね、持参したメモをもとにメロディを付けてもらい、楽曲に仕上げたとの事…。

曲のタイトルは「春よ来い」。そして…それは1970年、はっぴぃえんどファーストアルバムの1番めの曲としてリリースされたのでした。

ロックの「春よ来い」は、苦悩する若き漫画家永島慎二の作品にインスパイアされた、20代のミュージシャンとのコラボとも言えるかもしれませんが、実はこの漫画は永島慎二氏を慕って上京してきた若者の作品がベースになっていたらしいのです。

作品は未熟だけれども、その情熱をなんとか発表してあげたいと思った永島氏が手を加えて世に出した…と作品の後書きにありました。

漫画家残酷物語は、いわゆる一般受けする漫画ではないでしょうが、昭和30年代の若者の生きることと表現へのひたむきさが見事に描かれている傑作だと思います。
いまだに根強いファンがおり、入手可能ですのでぜひ一読頂けたらと思います。

50年以上昔に読んだこの作品を、今この年になって、こうして読んでみると、若いと言う事は実に過酷だけれども、実に美しく素晴らしいもんだとつくづく感じてしまうのでした。

春よ来い(はっぴぃえんど)
https://www.youtube.com/watch?v=5MiFpYwbH1k
作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一


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